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ロッキード事件丸紅ルート判決とは?刑事免責と内閣総理大臣の職務権限を解説

1.事件の基本情報

  • 事件名ロッキード事件丸紅ルート

  • 裁判所最高裁判所大法廷

  • 判決日:平成7年2月22日

  • 結論

    • 被告人A・Bの各上告を棄却
      → 有罪認定は維持(ただし理由付けの一部は手直し・補足あり)


2.問題となったポイント(ざっくり2本立て)

  1. 刑事免責付きの嘱託証人尋問調書に証拠能力ある?

  2. ロッキード事件の贈賄で、内閣総理大臣(E)の「職務権限」どう考える?
    → 「総理の職務に関する賄賂」になるか?って話。


3.第1テーマ:刑事免責と国際司法共助の証拠能力

(1) 事案の流れ(証人C・D)

  • 検察官が、アメリカ在住の証人C・Dらの証人尋問を、日本の裁判所経由でアメリカ連邦地裁に国際司法共助として嘱託。

  • ところがC・Dは、「日本で起訴されるおそれがあるから証言しない」と拒否。

  • そこで日本側:

  • その「刑事免責」を前提にして、アメリカで証人尋問が行われ、調書が日本に送られた。

(2) 最高裁の判断(法廷意見)

① 日本は「刑事免責制度」を採用していない

  • アメリカでは
    → 共犯者などに対し「証言させる代わりにその人は起訴しない」という制度(刑事免責)が法制度として整備されている。

  • しかし、日本の刑訴法にはそのような制度を定める規定がない。

  • 刑事免責は、

    • 共犯者の一部に免責を与えて供述を強制し

    • その供述で他人の犯罪を立証する仕組み
      → 刑事手続の公平性・国民感情に大きく関わる制度だから、やるなら立法で明文規定が必要。

  • でも刑訴法はそれを置いていない=刑事免責制度は採用していないと解するべき。

② 刑事免責で得た供述は、証拠として使えない

  • 刑事免責制度を採用していない以上、
    → 刑事免責を付与して得た供述を、事実認定の証拠として用いることは許されない

  • それは国際司法共助で得た証拠でも同じ

    • 海外で合法的な手続でも

    • 日本の証拠として使うかどうかは、日本の刑訴法の考え方で決める。

→ 結論:
本件嘱託証人尋問調書は証拠能力を否定すべき

ただし、

  • この調書を除いても他の証拠で有罪認定は可能
    → 結果(有罪)は変わらない、として上告棄却。


4.第2テーマ:内閣総理大臣の職務権限と贈賄罪

(1) 問題となった請託の内容

  • 被告人Bは、丸紅側として、E(当時の内閣総理大臣)に対し
    → 「運輸大臣に働きかけて、全日空(F)がアメリカ製L-1011型機を選定・購入するよう勧奨してくれ」
    と請託し、金員を供与した。

  • この「働きかけ」が
    → Eの内閣総理大臣としての職務権限に属するか?
    → そうだとすれば贈賄罪成立の「職務に関する行為」となる。

(2) 運輸大臣の権限(航空機機種の勧奨)

判決の考え方(多数意見):

  • 運輸省設置法・航空法などによって、運輸大臣

    • 航空運送事業の免許

    • 事業計画変更の認可(新機種導入時など)
      の権限を持っている。

  • 新機種導入には事業計画の変更認可が必要で、
    運輸大臣は認可基準(利用者の利便、公衆の利用、高度な航空保安など)に適合するか審査できる。

  • そのような権限の枠内で、
    → 必要な行政目的があれば、行政指導として特定機種の選定購入を勧奨することも許される

よって:

特定機種の選定購入の勧奨は、一般的に運輸大臣の職務権限に属する。

(3) 内閣総理大臣の権限

  • 憲法・内閣法上の地位

    • 内閣の首長(憲法66条)

    • 国務大臣の任免権(68条)

    • 行政各部を指揮監督する権限(憲法72条/内閣法6条)

  • 内閣法

    • 閣議は総理が主宰(4条)

    • 閣議にかけて決定した方針に基づいて」行政各部を指揮監督(6条)

    • 行政各部の処分や命令を中止させることも可能(8条)。

多数意見の整理:

  • 閣議決定があればもちろん「指揮監督」権限が行使できる。

  • さらに、閣議方針が明確に反していない限り
    → 総理は主任大臣に対して「指導・助言・働きかけ」(=広い意味での指示)を行う権限を持つ。

(4) この事件での結論(贈賄罪)

  • 運輸大臣全日空L-1011型機の選定購入を勧奨することは、
    運輸大臣の職務権限に属する。

  • 内閣総理大臣運輸大臣に対して
    → 「L-1011型機の選定購入を勧奨するよう働きかける」行為は、
    → 総理の「行政各部に対する指示」という職務権限に属する。

  • 賄賂罪では、「具体的に適法にできたかどうか」までは問わず、
    一般的職務権限に属する行為であれば足りる
    → その行為の対価として金品を受け取ること自体が、公正と信頼を害するから。

したがって:

被告人Bは、Eに対し内閣総理大臣の職務権限の行使の対価として金員を供与した
= 贈賄罪成立を肯定した原判決の結論は正当

ということで、上告棄却。


5.この判決の意義

刑事訴訟法憲法との関係

  • 日本の刑訴法は刑事免責制度を採用していないと明言。

  • 国際司法共助であっても、
    → 日本の刑訴法の仕組みに反する形(刑事免責付き証言)で得られた供述は、事実認定の証拠にはできない

  • 「自己負罪拒否特権」や「公正な刑事手続」の観点がベースにある。

② 贈賄罪と「職務権限」の捉え方

  • 職務権限は
    行政法上の「適法な権限があるか」より、
    → 刑法上は「一般的職務権限の枠内か」「職務と密接に関連するか」で見る。

  • 内閣総理大臣の職務は超広範で、
    → 行政各部を統括・調整し、主任大臣に対して指示や働きかけをする権限がある。

  • その働きかけ自体が「職務行為」または「職務と密接に関係する行為」とされ、贈収賄の対象となる。

6.一問一答ミニチェック

Q1. 本件で問題となった嘱託証人尋問調書は、なぜ証拠能力が否定された?


A1. 日本は刑事免責制度を採用しておらず、刑事免責を付与して得られた供述を事実認定の証拠とすることは刑訴法の精神上許されないから。国際司法共助で得た証拠でも同じ。

 

 

Q2. 国際司法共助で外国の合法手続により収集された証拠は、常に日本でも証拠能力がある?


A2. いいえ。日本の刑訴法・憲法の枠組みから見て許容できるかが別途問題となる。本件では刑事免責付き供述であるため証拠能力NG。

 

Q3. 贈賄罪の「職務に関する行為」とは、具体的に適法な行為であることが必要?


A3. 不要。法令上の一般的職務権限に属する行為であれば足り、適法に行えたかまでは問わない。

 

 

Q4. 内閣総理大臣運輸大臣への働きかけは職務権限に属する?


A4. 属する。内閣総理大臣は行政各部を統括し、主任大臣に対して指導・指示を与える権限があるから、その範囲内の行為とされた。